心のページ
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このページは市民から人格者と認められ、思想的に偏らない方に事務局からボランティアをお願いし、悩みの多い青少年や市民にメッセージを送っていただくコーナーです。



坂井孝之さん
プロフィール

昭和21年東京生まれ。
2歳の時、病気で失明。3歳より横浜訓盲学院で学ぶ。
高校2年生の時フルートと出会い、新井力夫氏に師事。
1970年第20回全国盲学生音楽コンクールにて優勝。
フルートのほか、リコーダー、オカリーナ、ケーナ、篠笛(しのぶえ)などを演奏。
「笛吹きおじさん」を自称。
現在、マッサージ、はり業のかたわら、各地で演奏活動を行っている。
2004年NHK教育TV「きらっと生きる」に出演。


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今週(12月25日号)、毎日新聞の情報紙
「Oh!Me」に掲載された心のページ

2003.12.25

祈 り


横浜は坂の多い町である。

私の育った盲施設、横浜訓盲学院も小高い山の上にあった。寝起きする家も、勉強する教室も、グラウンドもすべて斜面に面しているので見えない私たちの移動はちょっとしたスリルがあった。雨の日や凍えるような冬の日は泣きたいくらいだったが、みんな弱音をはかなかった。

高校2年生の5月、知らない人から手紙が届いた。

「私は訓盲学院のハーモニカバンドのファンです。坂井さんがフルートを欲しがっていると聞きましたので贈ります」要約するとこのような内容だった。
「知らない人が僕にフルートをくれる…」。驚き、喜び、不安の入り混じった気持ちのまま日が過ぎていった。

6月のある日、教室で勉強していたら楽器店の人がやってきて僕の手にフルートを持たせてくれた。あんなに欲しかったフルート触ってみたかったフルート。うれしくて言葉もなく、息をのんだ。

3歳の時から暮らした訓盲院で教えられた「祈り」に反発したこともあったが、いつの間にか私は祈っていた。 変えられない自分の状況をあきらめていたはずなのにフルートへの憧れは祈りに変っていた。

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