作陶生活60年
これからも楽しく作り続けたい
陶芸家
髙橋 政男(たかはし まさお)さん(甲賀市在住・85歳)
信楽焼独得の緋色(ひいろ)や焦げを追求する陶芸家が多い中、自由な造形と装飾で自らの感性を表現する信楽の陶芸家髙橋政男さん。1970(昭和45)年に日展初入選を果たし、2022年には令和4年度地域文化功労者として文化庁より表彰を受けた。「これからも信楽の自然をテーマに楽しく作り続けたい」と創作への意欲は尽きない。
陶芸家を目指す
今年6月、作陶展が開催された会場
作陶生活60年の節目を迎えた陶芸家の髙橋政男さんが今年6月、地元甲賀市のギャラリーで作陶展を開いた。初期の作品から最新作まで約30点が並べられ、連日多くのファンでにぎわった。
信楽で生まれ育った髙橋さんは子どもの頃から「粘土遊び」が大好きだった。陶芸家になることを志し信楽窯業試験場に研究生として入所、終了と同時に作陶の道へと進んだ。20代で滋賀県美術展覧会(県展)の特選を受賞し無鑑査にもなったが、髙橋さんは陶芸家の多くが憧れる日展入選を目標に作陶するようになっていった。
日展入選
日展初入選作品〈作品名:印華〉
30歳のとき、知人の紹介で日本芸術院会員の六代清水六兵衞氏と出会った。氏は「君は信楽だから信楽の素材を活かしなさい。地方にも日展を広めてもらうことが必要だ。是非勉強してください」と話してくれた。髙橋さんは氏を師事すると共に、氏が結成した京都陶芸家クラブに入り、京都東山で開催する勉強会に片道2時間かけて通った。
勉強会には約30名のメンバーが焼成前の作品を持ち寄り、さまざまな意見をお互いにぶつけ合う。「狸を作るような土で泥臭い」「荒々し過ぎる」など、毎回酷評の連続だった。信楽と京都の陶芸に対する評価の違いや自分の勉強不足と情けなさに、信楽への帰り道自宅近くを流れる大戸川に作品を投げ捨てたこともしばしばだった。
1970(昭和45)年憧れの日展に初入選、以降37回にわたって入選を果たした。2004(平成16)年には甲賀市無形文化財にも認定された。
信楽の若き担い手を育てる
信楽の自然や琵琶湖をテーマにしたオブジェ
創作活動に励む一方、県立信楽高等学校窯業科(現 セラミック科)の指導者として37年間教鞭を執った髙橋さん。「私が京都陶芸家クラブで学んだ知識や日々の研究を、授業で生徒たちに還元する喜びがあった」と、当時を振り返る。教え子の中には母校で指導者になった教諭や日展作家として活躍している作家もいるという。
滋賀県工芸美術協会の会員として発足当初から活動し、県内各市で行われる市展の審査員を永く務めるなど、県の美術工芸の振興に貢献した実績が認められ、2016(平成27)年には滋賀県文化賞を、2022(令和4)年には地域文化功労者として文化庁より表彰を受けた。
「一歩でも前進したい。遊びながら楽しく創作活動を続けたい」髙橋さんの目には、尽きることのない作陶への意欲が感じられた。
(取材・髙山)
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